大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和42年(ワ)525号 判決

原告 平田一字

右訴訟代理人弁護士 大家国夫

被告 大塚コト

引受参加人 長谷川五郎

右両名訴訟代理人弁護士 米野操

主文

被告は、原告に対し金二四一万〇、二二五円およびこれに対する昭和四三年一二月一三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

原告の引受参加人に対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告との間に生じた分は被告の負担とし、原告と引受参加人との間に生じた分は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

(一)  主位的請求

(1) 被告は、原告に対し別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という。)につき福岡法務局北九州支局昭和四一年一〇月三一日受付第二四〇二〇号停止条件付所有権移転仮登記および同支局昭和四二年五月八日受付第一〇八三七号所有権移転登記の各抹消登記手続をし、かつ原告から金二三一万九、五一〇円およびこれに対する昭和四二年四月一日から支払済に至るまで年一割五分の割合による金員の支払を受けるのと引換に、原告に対し本件不動産につき同支局昭和四一年一〇月三一日受付第二四〇一九号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

(2) 引受参加人は、原告に対し本件不動産につき同支局昭和四四年一月二二日受付第一二〇三号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(二)  予備的請求

被告および引受参加人は、各自原告に対し金二五四万八、七九〇円およびこれに対する被告は昭和四三年一二月一二日から、引受参加人は昭和四四年四月四日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告および引受参加人

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、請求原因

一、原告は、訴外新井吉次郎を代理人として、昭和四一年一〇月三一日被告から金三〇〇万円を利息月五分の約定で借り受け、右債務を担保するため、原告所有の本件不動産につき抵当権を設定し、同日福岡法務局北九州支局受付第二四〇一九号をもって抵当権設定登記をした。

二、原告は、被告に対し右金銭消費貸借に基づき昭和四一年一一月分から昭和四二年三月分まで利息として毎月金一五万円宛合計金七五万円を支払ったが、右は利息制限法に違反するので同法所定の制限を超過する部分を元本に充当すると昭和四二年三月末日で元本残金は金二三一万九、五一〇円となるから、原告は、被告に対して右金員およびこれに対する昭和四二年四月一日から支払済に至るまで利息制限法所定の範囲内において有効な約定利率年一割五分の割合による金員の支払をなすのと引換に、右抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

三、ところで、被告は、右新井吉次郎から右抵当権設定登記をなすために交付を受けた原告の印章および印鑑証明書を冒用して登記申請書を偽造したうえ、原告に無断で、本件不動産につき昭和四一年一〇月三一日福岡法務局北九州支局受付第二四〇二〇号をもって停止条件付所有権移転仮登記をし、これに基づき昭和四二年五月八日同支局受付第一〇八三七号をもって所有権移転登記をしたうえ、さらに、本訴提起後の昭和四四年一月二〇日引受参加人に対し本件不動産を代金四〇〇万円で売り渡し同月二二日同支局受付第一二〇三号をもって所有権移転登記を経由した。

そこで、原告は、被告に対する右所有権移転仮登記および所有権移転登記は実質関係のない偽造の申請書による無効の登記であり、したがって、これに基づいてなされた引受参加人への所有権移転登記も前提を欠き無効であるから、これら各登記の抹消を求める。

四、仮に、右の各請求が認められないとすれば、前記停止条件付代物弁済契約は、同時に抵当権が設定されかつ契約時における本件不動産の価格と弁済期までの元利金額とが合理的均衡を失することが明らかであるから、実質は担保契約であって、被告は、本件不動産の価格から前記貸金およびこれに対する利息制限法所定の範囲内で有効な約定利息を差し引いた残額はこれを原告に返還すべき義務を負うところ、本件不動産の価格は昭和四二年五月八日被告がその所有権を取得した当時少くとも金四八七万三、〇〇〇円を超えたので、右金員から前記のとおり既に支払済の金七五万円を利息および元本に充当した残元本二三一万九、五一〇円およびこれに対する昭和四二年四月一日から同年五月八日まで利息制限法所定の範囲内において有効な年一割五分の割合による約定利息金三、七〇〇円の合計金二三二万四、二一〇円を差し引いた残額金二五四万八、七九〇円は、これを原告に返還すべきである。しかして、引受参加人は、被告は、本件不動産につき右返還債務を有することを知りながら、本件物件を取得したものであるから、右債務を引き受けたものというべく、したがって、原告は、被告および引受参加人に対し各自右金員およびこれに対する被告は被告に対する請求の日である昭和四三年一二月一二日から、引受参加人は原告の昭和四四年三月二八日付準備書面が送達された日の翌日である同年四月四日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告および引受参加人の認否

一、請求原因一の事実は認める。但し、貸金の弁済期日は昭和四一年一一月三〇日である。

二、同二の事実中、被告が原告主張のとおり利息の支払を受けたことは認める。

三、同三の事実中、原告主張の仮登記および本登記が実質関係を欠き、原告の印章および印鑑証明書を冒用して偽造した登記申請書に基づくとする点は否認するが、その余の事実は認める。

四、同四の事実は否認する。本件土地はいわゆる更地ではなく、同地上には本件建物のほか借地人二名が所有している建物が存在し、これらの建物はそれぞれ他人に賃貸されており、これら借地借家関係の複雑な法律関係からすれば、家賃および地代の取立は一切不能であって尋常では容易に買主がない。

第四、被告および引受参加人の抗弁

一、(請求原因二、三につき)

原告は、訴外新井吉次郎を代理人にして、被告との間に昭和四一年一〇月二九日本件不動産について前記同日付金銭消費貸借の債務不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結し、昭和四二年五月四日原告の右債務不履行により右条件が成就したものであって、被告への停止条件付所有権移転仮登記および所有権移転登記はこれに基づいてなされた。

≪省略≫

二、(請求原因四につき)

被告は、本件不動産の所有権を取得して以来本件不動産から一銭の収入もないのに、かえって昭和四二年五月八日の移転登記費用(登録免許税を含む。)として金四八万八、二六八円のほか、不動産取得税、固定資産税および引受参加人への移転登記費用(登録免許税を含む。)として金七七万五、二五〇円を支出もしくは負担しており、また、引受参加人も同様不動産取得税および固定資産税として金三二万三、三九〇円を負担しているもので、右金員は本件不動産の代物弁済による被告への所有権帰属に伴いなさるべき清算に際し考慮さるべきである。

第五、抗弁に対する原告の認否

抗弁一の事実は否認する。

第六、原告の再抗弁

(抗弁一につき)

仮に、訴外新井吉次郎に代理もしくは表見代理の成立が認められて、右停止条件付代物弁済契約が成立したとしても、本件不動産は昭和四二年七月一九日(本件訴提起の日)当時、北九州市の固定資産評価格で合計金八八六万四、七三六円、時価で金二、〇〇〇万円に相当するのに、被告は、原告の資金調達の必要につけこみ、原告をして僅か金三〇〇万円の貸金の債務不履行があれば、契約締結の時より半年もたたないうちに、代物弁済として本件不動産の所有権を被告に移転しなければならない旨の停止条件付代物弁済契約を結ぶことを余儀なくさせたものであるから、右契約は、原告の窮状に乗じ不当の利得をはかるものとして、公序良俗に違反し無効である。

第七、再抗弁に対する被告および引受参加人の認否

本件不動産の固定資産評価格が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。前記のとおり本件不動産の借地借家関係は複雑であるから、本件不動産の売買時価相場は原告主張のごとく高額ではない。また、被告は、当初約定の弁済期限である昭和四一年一一月末日が到来したからといって、直ちに停止条件付代物弁済の条件が成就したとして所有権移転登記をなしたものではなく、原告の懇願を容れて、一ヶ月づつ四ヶ月間これを猶予したものであって、原告が、昭和四二年四月からの利息を被告の再三の催告にもかかわらず、これを無視して支払わず、印鑑証明書の書替の要求にも応じない等誠意が認められなかったため、やむを得ず当初の約定どおり債務不履行を理由に代物弁済として本件不動産の所有権移転登記をしたものであって、公序良俗に反する旨の原告の主張は失当である。

第八、証拠関係≪省略≫

理由

原告が、訴外新井吉次郎を代理人として、被告との間に昭和四一年一〇月三一日金三〇〇万円を利息月五分の約定で借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し、右債務を担保するため、原告所有の本件不動産につき抵当権を設定し、同日福岡法務局北九州支局受付第二四〇一九号抵当権設定登記を了したこと、原告主張のとおり本件不動産にはさらに同日同支局受付第二四〇二〇号停止条件付所有権移転仮登記および昭和四二年五月八日同支局受付第一〇八三七号所有権移転登記がなされていること、被告が、本訴提起後の昭和四四年一月二〇日引受参加人に対し本件不動産を代金四〇〇万円で売り渡し、同月二二日同支局受付第一二〇三号所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

≪証拠判断省略≫≪証拠省略≫を綜合すると、原告は、昭和四一年一〇月頃当時北九州市小倉区魚町に建設中のレストセンターの資金繰りに窮し、新井吉次郎に本件不動産を担保として金策を依頼し、右新井は知人の松本款五郎の紹介により引受参加人を知り、同人を通じて被告との間に前記の金銭消費貸借契約を締結することとなり、右新井において本件不動産の保証書、印鑑証明書等を引受参加人の指示に従って時増隆司法書士事務所に交付する等手続をすすめたこと、しかしながら、右金銭消費貸借契約に伴う登記書類作成および金員の授受は原告との間で行うこととなり、そのため原告、新井、引受参加人は昭和四一年一〇月三一日前記司法書士事務所で落ち合う約束であったこと、ところで、当日原告は、引受参加人より一足早く同事務所に赴き、金銭消費貸借抵当権設定契約書、「証」と題する書面、抵当権設定登記申請の委任状、停止条件付所有権移転仮登記申請の委任状および所有権移転登記申請の委任状にそれぞれ署名押印したこと、右「証」と題する書面には、本件不動産につき抵当権設定登記および停止条件付代物弁済による所有権移転仮登記をなし、支払期日が到来したのにその支払をなさないときは、所有権移転の本登記手続をなしたうえ完全に所有権を取得されても異議のない旨記載されていること、しかも、原告が右署名押印をする際には時増司法書士において原告に対し停止条件付代物弁済の意味内容につき説明していること、本件金銭消費貸借契約の支払期日は昭和四一年一一月三〇日と定められていたこと、しかしながら、当初から必ずしも右期限を徒過したからといって直ちに所有権移転の効果を生じるものではなく、或程度履行を猶予する趣旨もあって、被告は昭和四二年四月三〇日まで一ヶ月毎にその支払期限を猶予したこと、原告が、昭和四二年四月三〇日を徒過して利息の支払を怠り、かつ予め所有権移転の本登記をなすのに必要な書類として差入れてあった印鑑証明書の有効期限が切れるので、被告から新たな印鑑証明書の交付方を催促されていたのに、一向これに応じなかったため、被告は、右既存の印鑑証明書の有効期間の最終日である昭和四二年五月八日前記停止条件付代物弁済契約の条件が成就したことを理由に、所有権移転の本登記を了したものであることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫そうすると、原告は、被告代理人である引受参加人と昭和四一年一〇月三一日前記金銭消費貸借に伴い、本件不動産について抵当権を設定するとともに、停止条件付代物弁済契約を締結して、その仮登記をし、さらに、原告が昭和四二年四月三〇日の支払期限を徒過したため、右停止条件が成就したので、被告は、これを理由に昭和四二年五月八日右仮登記に基づく本登記をしたものと認められ、右各登記はいづれも実質関係を伴った有効な登記であって、原告の印章を冒用した偽造の登記申請書に基づいてなされたものとする原告の主張は肯認することができない。

ところで、原告は、右停止条件付代物弁済が原告の窮状に乗じた不当利得行為であるから、公序良俗に反して無効であると主張する。よって、この点について判断するに、まず右契約が締結された昭和四一年一〇月三一日当時の本件不動産の価格について検討すると、本件訴が提起された昭和四二年七月一九日当時の本件不動産の北九州市固定資産評価格が合計金八八六万四、七三六円であることは当事者間に争いがないが、≪証拠省略≫によれば、同鑑定人は本件不動産の昭和四一年一〇月三一日当時の取引時価額を金四七三万一、〇〇〇円であると評価したこと、右価格の評価にあたっては、近隣類地における取引事例価格、税務署査定の路線価、北九州市固定資産評価格等を資料に、本件不動産の賃貸借関係が考慮されていることが認められる。したがって、右鑑定による価格は、合理的根拠に基づくものというべく、固定資産評価格より低額とはいえ(ただし、算定時期は相違する。)、右鑑定による価格をもって昭和四一年一〇月三一日当時の本件不動産の価格であると考えるのが相当である。≪証拠判断省略≫してみると、右価格は前記貸金債権額に比し合理的権衡を失するうらみがあり、しかも、前記のとおり本件停止条件付代物弁済契約は抵当権設定と同時になされたものであるから、右停止条件付代物弁済契約は貸金債務の担保たる機能を有している担保権と同視すべきものである。したがって、被告にはいわゆる清算義務があるので、被告が暴利を得ることはありえず、被告が原告の窮迫を利用して原告に不利な内容の契約を結ばせたものと認めることもできない。そこで、本件停止条件付代物弁済が公序良俗に反し無効であるとの原告の主張は理由がないものといわなければならない。

ところで、右のとおり本件停止条件付代物弁済契約は担保権と同視すべきで、被告にいわゆる清算義務があると解すべきであるが、その清算方法はいわゆる処分清算と帰属清算のいずれと解すべきであろうか。一般的に、当事者間にこの点の合意がなされているときにはそれにより、その合意がなされていないときは債権者にその選択権があると解すべきである。これを本件についてみるに、原、被告間にこの点の合意がなされたと認めることができる証拠はないので、債権者である被告にその選択権があるというべきところ、被告は、前記のとおり本件不動産の所有権移転の本登記を受けながら、その後約二年近く処分することなく、≪証拠省略≫によれば、被告が約二年後引受参加人に対し本件不動産の所有権を移転したのは、本件不動産の賃貸借関係が複雑で満足にその地代、賃料の徴収ができないので、引受参加人が被告の娘婿であり、被告が原告と本件停止条件付代物弁済契約を結ぶについて被告側の仲介をしたところから、被告が代金四〇〇万円で引受参加人に売却したものであり、その代金も内金一〇〇万円を支払ったのみで、その余の代金は本訴の結着をまって支払うことになっていることを認めることができるので、被告は帰属清算の方法を選んだものというべきである。したがって、被告が前記のとおりすでに本件不動産の所有権移転の本登記を経由した以上、原告は本件貸金の元利金等を支払って本件不動産を取り戻すことはできないものである。

そうすると、本件不動産につきなされた被告に対する前記仮登記およびこれに基づく本登記はいずれも有効な実質関係に基づく有効な登記であって、したがって、これに基づいてなされた前記引受参加人に対する所有権移転登記も有効であり、また、前記のとおり、原告はもはや本件貸金の元利金等を支払って本件不動産を取り戻すこともできないから、結局右各登記の抹消を求める原告の請求は、いずれも理由がない。

原告は、本件消費貸借契約の貸金残金の支払と引換えに前記抵当権設定登記の抹消を求めるが、前記のとおり帰属清算的に本件物件の所有権は代物弁済により抵当権設定権者である被告に移転したから、右抵当権は混同により消滅したものといわざるをえず、原告は、本件不動産の所有権を喪失した以上、右抵当権の抹消を求めることはできない。よって、原告のこの点の主張もまた、理由がない。

そこで、原告の予備的請求について判断する。

本件停止条件付代物弁済契約が実質的に担保権と同視すべきで、被告に清算義務があり、被告がいわゆる帰属清算の方法を選んだというべきことは、前記のとおりである。そして、その清算は、被告が、本件不動産が被告に本登記された昭和四二年五月八日当時の本件不動産の適正な時価から、貸金残元本および同日までの利息等原告において支払うべき金員を控除した残額を、原告に返還して清算すべきである。まず、≪証拠省略≫によれば、同鑑定人は、右昭和四二年五月八日当時の本件不動産の取引時価額を金四八七万三、〇〇〇円と評価したこと、右価格の評価にあたっては、近隣類地における取引事例価格、税務署査定の路線価、北九州市固定資産評価格等を資料に、本件不動産の賃貸借関係が考慮されていることを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫したがって、右鑑定による価格は相当で、これをもって本件不動産の昭和四二年五月八日当時の適正な時価と認める。もっとも、右価格は、本件不動産が競売されたときの価格や、被告がいわゆる処分清算の方法を選んで処分するときの価格と異ることもあると考えられるが、被告がいわゆる帰属清算の方法を選んだ以上、やむをえないところである。つぎに、原告が昭和四一年一一月一日から昭和四二年三月三一日までの約定利息として月五分の割合による合計金七五万円を支払ったことは、当事者間に争いがないが右の利息の定めは利息制限法所定の年一割五分の範囲内においてのみ有効と解されるから、右制限を超える部分はこれを元本に充当すべく、そうすると、別紙計算書記載のとおり、昭和四二年三月三一日現在の貸金残元本は金二四二万四、九〇七円となる。したがって、原告は、被告に対して右残元本とこれに対する同年四月一日から同年五月八日までの利息制限法所定の範囲内において有効な年一割五分の割合による約定利息金三万七、八六八円を支払う義務があるといわなければならない。≪証拠省略≫によれば、被告は、本件本登記の費用として、登録免許税金四八万六、三八八円、司法書士報酬等金一、八八〇円合計金四八万八、二六八円を支払っていることを認めることができる。右金員は、(1)弁済費用として債務者である原告の負担とすべきか、(2)売買契約の費用としてその当事者である原、被告の平等負担とすべきか、(3)競売に準じて買主である被告の負担とすべきかは、争いのあるところであるが、本件停止条件付代物弁済契約は担保権と同視すべきものであり、処分清算のときも買主の負担となり債務者の負担とはならないし、しかも債権者である被告はあえて帰属清算の方法を選んだのであるから、被告には不利ではあるが、右(3)を相当と解するので、右金員は清算の対象とならない。被告は、このほか不動産取得税および固定資産税および引受参加人への移転登記費用(登録免許税を含む。)も原告において負担することを主張するが、これらはいずれも所有権を取得した被告が所有者としての地位に基づき支払うべき金員であるから、その支払を原告に求めることは既に主張自体において理由がないものといわざるをえない。すると、結局原告は、被告に対して右元利金合計二四六万二、七七五円を支払うべきことが明らかであるから、被告は、原告に対し前記本件不動産の適正時価金四八七万三、〇〇〇円から右金員を控除した残金二四一万〇、二二五円を返還して清算すべき義務を負担しているものといわざるをえない。したがって、被告は、原告に対し金二四一万〇、二二五円およびこれに対する右金員支払請求の意思表示をした昭和四三年一二月一二日付準備書面が被告代理人に到達した日の翌日であること本件記録上明らかな同月一三日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならず、原告の予備的請求は、この限りで理由がある。

原告は、右金員を返還して清算すべき義務はその後本件不動産を取得した引受参加人においても負担すべきであると主張するが、確かに引受参加人が本件不動産取得前の昭和四三年一二月一二日第五回口頭弁論期日において証人として出頭し事情を述べていることは、記録上明らかであり、また、被告の代理人として本件金銭消費貸借および抵当権設定ならびに停止条件付代物弁済の各契約締結に関与していることは、前認定のとおりであって、これらの事実を合わせ考えると、引受参加人は、本件不動産を取得した当時被告が本件不動産につき前記清算義務の履行を請求されていることを十分熟知していたことが窺われるが、このことから直ちに引受参加人が被告とともに右清算義務を負担することを引受けたとまでは首肯しがたく、その他本件全証拠によるもこの点を認めるに足りない。したがって、引受参加人に対して右の清算義務の履行を求める原告の請求は、理由がない。

以上説示のとおり、結局被告は、原告に対し金二四一万〇、二二五円およびこれに対する昭和四三年一二月一三日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべく、原告の請求は、この限りにおいて理由があるから、これを認容するが、原告の被告に対するその余の請求および引受参加人に対する請求は、これを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 三村健治 岩井正子)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例